読書「サピエンス全史(上)」

遅ればせながらホモサピエンス全史の上巻を読みました。流石の良書でしたね。色々思うことがありましたが、その中でも個人的に特に印象的だったのは、多くの人が話題にしている「虚構」を切り口とした認知革命よりも、農業革命による暮らしの変化に関する話でした。 要するに、人類が農業を手にしてから定住し、食料の供給量が増え、人口が増えた。人が増えたので食料が足りなくなり、更に農業にリソースを投入、また定住しており動くに動けないため、収穫量が多いと敵に狙われることから見張り強化にもリソースを投入する。 安定的に食が手に入るぞと思っていたが実際のところは半端なく労働力が増えていて負のスパイラルに入ってるという構造。これを筆者は次のように表現していました。

「数人の腹を満たし、少しばかりの安心を得ることを主眼とする些細な一連の決定が累積効果を発揮し、古代の狩猟採集民は焼け付くような日差しの下で桶に水を入れて運んで日々を過ごす羽目になったのだ。農耕のストレスは広範の影響を及ぼした。」

「歴史の数少ない鉄則の1つに、贅沢品は必需品となり、新たな義務を生じさせる、と言うものがある」

これは今の時代に突き刺さるものがあるのではないかと感銘を受けました。今のコロナの状況を見ると重ならざるを得ない事象があります。ビジネスにおいて口を開けば「規模の拡大、規模の拡大」と発破をかけ、作れば売れる時代の高度成長期の号令が空しく響いている世の中。バブルがはじけて、失われた10年が20年となり、もう30年となってしまうこの状況、皮肉にも歴史が解の方向性の示唆を与えてくれていると感じてしまいます。

人が増えると引き返せなくなるという事実
筆者曰く、農業革命で後戻りできなかった理由のひとつとして、人口が増加したために、今更引き返せなかったと言う事情もあるとのこと。これは規模の拡大を図り、売上を伸ばすために雇用を増やしたものの、いつの間にか雇用を維持するために売上をつくることに血眼になっている状態の企業そのものではないでしょうか。

上場企業はどうか?
上場企業なら大丈夫なんて訳がなく、むしろど真ん中。上場したら一気に株主が増えるので当然市場で売り買いしている株主達は株の売買差益を狙うので売上上げろ、収益上げろとプレッシャーをかけるのは当たり前。そして法で守られているので米国のように簡単に従業員を解雇できません。まさに雇用維持、限界がきて高いお金上乗せして希望退職公募、また副業解禁で会社の先々の雇用に関する流れをスムーズにすべく足場を固めていく。

ベンチャーはどうか?
上場していなくてもVCやファンド、エンジェルから直接金融するベンチャーも構造は同じでしょう。Goサインが出たらマーケットを席捲すべく、スピード勝負の先行投資で人の採用が加速化します。そこでしばらくして思った以上の結果がでないぞと雲行きが怪しくなると、うまくピボットできればいいですが、事前契約で口を出さないと合意してもらえたので大丈夫♪なんていっても、自分のお金がピンチとなれば資金提供サイドは口を出します。業績や展望が下方修正に入ると周りに迷惑をかけているので経営陣は強気に行くこともできず、実質的な主導権が徐々になくなり、気づけば人件費という巨大な固定費の蓄積に会社が埋もれて、とにかく数字を追う毎日へ。周りをみてこころあたりないでしょうか。ただ目標に向かってチャレンジしている姿勢は評価されるべきだと思います。

中小企業はどうか?
逆に中小企業だとオーナー系が多く、株もほぼ100%創業者兼社長、もしくは同族100%が多いですから、意思決定に関してフレキシブルに対応できます。つまり、トップがしっかりしていれば大手やベンチャーよりも、外部からのプレッシャーがほぼないので、経営者の想定の範囲内で概ねビジネスを回せるでしょう。但し、経営の根幹を揺るがすような見誤った意思決定をしたり、承認欲求を満たすための、高級社用車や見てくれのための立派なオフィス、大きいオフィス、明確な目的や根拠もないのに売上xx億、従業員xxx名と規模の追求に走ってしまうと、途端に農業革命時と同じ固定費のリスク環境に自ら飛び込むことになりますので気を付けましょう。

働く環境も変わってきている
一方で雇用される側はどうでしょうか。時代は変わり個の力がより発揮できるインフラが急ピッチで整ってきています。終身雇用はお手上げと財界の大物がメディアの前で言及、その結果必然と副業解禁の流れ、またコロナでのリモートの流れから中央集権的にオフィスに集まることなく個人がリモートで働く分散型のワークスタイルが一気に加速化(←トートロジーw)、クラウドソーシングも汎用的な仕事から、専門性の高い仕事まで、またコンサル的なプロフェッショナル系の業務もプロジェクトベースで個人を集めて行うスタイルが鋭意浸透中。

「規模と雇用」のセットの考え方は再考の余地あり
以上の①農業革命を手にした人間の想定外の苦しみ、②現在の口を開けば隣習えのスケールイズム、③個のワークスタイルの変化、以上3つの観点から、盲目的な規模の追求は勿論のこと、「規模と雇用」をセットで考えることに対しては再考の余地があると僕はホモサピエンスの本を読んで思いました。自分の目的にとって規模の追求がビジネスモデル上必須というモデルでない限り、マーケット設定やビジネスモデル、オペレーション体制で目的の実現をカバーできないかを改めて考える必要があるでしょう。ちなみにですが、突き詰めればグローバル競争に紐着くから規模を追求しないと淘汰される、という考え方は設定しているマーケットやどういう闘い方をするのか等のビジネスモデル次第と言えます。老舗はずっと同じビジネスをしているのではなく、変化して老舗に至ります。時代に合わせたビジネスモデルにアジャストしていく必要があり、とにかく規模という発想は裏を返せば知恵ある戦略のオプションが品切れで力業で行っているだけという可能性もあります。前提を決めつけずに考える姿勢が鍵を握ると言えそうですね。

日本の企業は簡単にレイオフできない
ちなみにですが、中には「会社が苦しくなったら解雇すればいいじゃん。仕方ないじゃん」と思う人もいるかもしれませんが、日本はある時を境に法改正で従業員が守られるようになったので、おいそれとできるものではありません。なので希望退職といった形で高いインセンティブを乗せて従業員からの退職願いを期待するという大手のお決まりの方法がありますよね。そして皮肉にも会社からすると退職して欲しい人たちが退職せず、優秀な人間が見切りをつけて退職してしまうというあるあるのケースが更に経営層を悩ませるのです。

スケールは夢がある。また実際にスケールした人は多大な社会貢献をしている。
とはいえ、起業してスケールして上場までたどりつくという一連のプロセスは夢がありますよね。雇用についてネガティブな側面を言及しましたが、社会的側面から捉えた場合に、多く人を雇用をしている事実は経営者として素晴らしい以外の何でもありません(その瞬間においては)。それに雇用している事実という観点では、大企業でなくても、一人でも二人でも雇用している経営者はそれだけで純粋にリスペクトです。これからは一部の大手企業・中堅企業以外は、ホワイトカラーだと組織に所属するよりも有機的に案件毎に集まって、終わったら解散するというプロジェクトベースがもっと普及していくと思いますので、会社の看板ではなく、より個が前面に出てくる中小企業や小規模事業者がもっと増えていくのかなと思います。その時にどこどこの大企業で部長していましたといった自己紹介しかできないなんてことがないようにスキルを身につけていく必要がありそうですね。

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」
有名な言葉ですね。農業革命の恩恵が現代の生活のベースとして脈々と受け継がれていますが、一方で人が増えすぎた際に後には戻れなかったという学びのポイントがあります。これから起業する人や今現在の中小・小規模事業経営者やフリーランスの方は、この農業革命の歴史からの学びを、物事を考える際の一つの評価項目としてとらえてみてはいかがでしょうか。いずれにしても良書でした!本の出会いに感謝。

読書本:ホモサピエンス全史の上巻